網野善彦(1928-2004)の著書『無縁・公界・楽』(平凡社、1978、増補版1987)は、中世における自由と平和の存在を主張し、日本中世史だけでなく、幅広い分野に影響を与え、多くの論争を巻き起こしました。
網野は、「エンガチョ」の遊びから叙述を始め、縁切寺・無縁所へと話を展開しました。近世には鎌倉の東慶寺などが著名な縁切寺として知られていますが、中世には無縁所と呼ばれていた寺にも同様の機能があり、他に諸役免除・徳政免除・債権追求の禁止などの特権が認められていました。さらに、無縁所と同様の機能を持つ公界所、主従関係など世俗的な縁から切れている公界者にも言及し、自治都市や領主の一揆の組織も公界と呼ばれていたことを明らかにしました。また、「楽市楽座」や「十楽」に見られる「楽」の本質を明らかにし、無縁・公界・楽が同一の原理に基づく言葉であることを主張しました。
無縁・公界・楽は、世俗的な縁から切れている点を特徴とし、多様な機能を持つが、その根底には自由・平和への希求があるとされています。網野はこうした原理を体現する場所や人へと話を発展させ、従来は注目されなかった中世社会の側面を浮彫りにしました。最後に、これらの原理が原始に源泉があり、その内実を追求すべきことを人類史的観点から述べているとしています。
本書は日本中世史に留まらず広い視野を持ち、従来の研究とは異なる視点から叙述されています。人々が本質的に求めていたものを叙述したゆえに、多くの人々にインパクトを与えたと思われますが、その一方で、主従関係や権力との関係を軽視し、天皇の存在を正当化しているという批判を受けました。また、従来の時代区分や歴史の発展法則に対しても再検討を促した点でも意義があり、問題意識の希薄な研究が多い状況にも警笛を鳴らしています。
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